診察室の二つの椅子

クリニックの診察室である。
患者さんの座る椅子が二つあって、背後に待合室に通じるドアがある。
向かって右側の椅子の隣は窓になっていてブラインドが掛かっている。左の壁の前には診察台がある。

お子さんの場合、お母さんといらっしゃることが多いのだが、診察室に入った後二人がそれぞれ左右どちらの椅子に座るかを見ていると興味深い。

自閉症圏のお子さんは、だいたいが向かって左の椅子、つまり私との距離が近い位置にすわる場合が多い。しかもお母さんより先に座るので、向かって右側の奥の席に座ろうとするお母さんの行く手を阻む事になる。この状態でのお母さんの行動もいくつかのパターンに分かれる。
「○○ちゃん、そっちにつめて」と言って、お子さんを窓際の右側の席に移動を促すパターン。
黙って向かって右側の椅子を後ろに引いて、そこから椅子に座るパターン。
お子さんの前、すなわちお子さんと私の間を無理矢理すり抜けて椅子にたどり着くパターン。
お子さんの脇に佇んだままのパターン。
診察台に腰をかけるパターン。
以上どのパターンをお母さんが取るかで、お母さんのだいたいの精神的健康度、お子さんとの関係の現状が推測できる。

また、向かって右の窓際の椅子に座るのは、神経症レベルのお子さんが多い。不登校でなんだか縮こまっちゃってるような人が、そのまま診察机の向こう側で縮こまっている。またあまり受診に積極的でない防衛的なお子さんも向かって右側である。あたかも診察机で防御しているかのようだ。

あと、自閉症圏のお子さんが向かって右側に座ると、必ず脇のブラインドをいじったり、透かして見たりを始める。
先日は40代の引きこもりの人が、診断してほしいという事でいらっしゃったのだが、席に座るなり横のブラインドをいじり始めた。様々な情報を集めて診断をしたその結果は、言うまでもない。